桃井かおりが素晴らしすぎた
ハリウッドリメイク実写「ゴースト・イン・ザ・シェル」は桃井かおりの映画である
何の話かというとハリウッドリメイク「ゴースト・イン・ザ・シェル」の話ですがね。
もちろんネタバレを含みますので、未見の方はそういう感じでお読み下さい。タイトルで既にちょっとネタバレしててゴメン。
冒頭1行目に既に書いているんだけども、この作品は海外でリメイクされた作品、として楽しむほかない。
どう考えてもProduction I.G版のどの攻殻機動隊でもないし、ましてや士郎正宗先生の「攻殻機動隊」でもない。設定を借りてきて、なんかそれっぽく仕上げたSF映画である。なので頭の中にすでに攻殻機動隊が居座っている系の僕は正直しんどかったと言わざるをえなかった。
むしろむしろ原作のネオTOKYO感、ネオチャイナ感の素晴らしさを痛感した。あと100年くらいしたら本当に士郎正宗先生の世界が来そうで、未来見てきたんかとしか言いようがない。
最初に結論を書くが、「攻殻機動隊」を期待して行った僕はこの作品、しんどかった。しかし桃井かおりは最高である。
最高なのである。
以下蛇足である。
リメイク版実写「ゴースト・イン・ザ・シェル」の残念なところ
しばらく残念なところを書きます。見所はもう少し下に書きます。
僕としては物語が始まってすぐくらいに同名別作品であると頭を必死に切り換えて楽しもうと努めた……つもりだけども、まずは、
1.サイボーグがサイボーグに見えない
これはもう人間が演じる以上仕方が無いんだけどさ、だけどもさ、人間の限界というか、人間らしさというか、生物やん、と。
多分本来的には口呼吸や食事の必要すらない完全義体の日常ってそうじゃないんじゃない? と作品の中での重要な、なんなら一番プライオリティー高そうな部分のリアリティーがリアリティーとして全然僕にフィットしなかったわけで。実写でやる以上一番難しかったであろう「生物」と「ロボット」の中間を見たかったな、と。
ややこしいのでアニメ版の登場人物名で書くけども、素子(スカーレットヨハンソン)が完全に人である(言い換えればとうてい全身義体のサイボーグには見えない)。
眼球の揺らぎ、皮膚感、呼吸、そのほかもう完全に人である。いやもう人なんだから人なんだけども、脳だけ残してあと全身擬体のハズなのに、もう完全に生き物である。
死体役は死んでいるべきとか言うつもりはないけども、脳以外はすべて交換可能であるコト、実体のない孤独と不安は作品のキモなわけで、そこがもう無理がある。その点、クゼ役のマイケルピットはかなりメカ感を意識して頑張っていたと思う。表情筋の硬直とか、眼球のゆらぎとか。
例えば『攻殻機動隊 S.A.C. 2nd GIG』の設定を引き継ぎ、幼少の頃から徐々に体を乗り継ぎ、長い年月をかけて完全義体になじんだからもはや体であるって設定ならわからなくもないけども、1年でそこまでいけます?
脳は脳としてあるのだから、思考が揺らぐ、感情が揺れるのはわかる。でも兵器としてフルカスタムされているハズの体がどう見積もっても数十キロ程度にしか見えない。心臓の鼓動や眼球の揺れを脳が自律的に制御しているから僕が書いている生き物らしさ、生きて生存する「ゆらぎ」ってのは完全義体でも引き継がれるのかもしれないけども、なんかもうちょっとわざとらしくサイボーグ感出してくれても良かったんちゃう? という好みの問題。
せめて海の中ではガンガンに沈んでくれよと、好きなシーンなんだよサイボーグが水に入るなんて自殺行為の件のシーン。
2.頭の中で声優が喋る
これはもう既に攻殻はこうあるべきという僕の思い込みのため、残念なのは完全に僕の脳だけども、字幕を目で追うと勝手にCV大塚明夫になるのはもう仕方が無い。
シンプルに吹き替え版を見るべきだった。反省。
特に本当に困ったのが、タケシである。
荒巻と言えば阪脩さんの正義感と芯のある声で脳内されてしまって本当に困った。いやー、公安9課は荒巻ありきっすよほんと。
リメイク版実写「ゴースト・イン・ザ・シェル」にはYAKUZAがたくさん出てくるのだけども、いやダントツYAKUZAなのタケシやん、ってなる。
その男凶暴すぎるやん、と。
3.世界観が中途半端で安い
いや、わかる。みんなの想像するネオトキヨ・ネオチャイナをオーバーグラウンドに映像化するとああいう感じになるのは、想像出来る。出来るんだけども、俺の好きなサブカルな攻殻機動隊をああいう感じのツルッとしたCG的な未来世界に置き換えられると、正直拒否反応が出てしまう。
ロケハンチームが探し出してきたであろう現実世界に存在するネオトキヨ・ネオチャイナな映像はすごかった。素子のマンションとか、お墓とか。
公安9課メンバーの実写化は見た感じすごくハマってはいる、でも荒巻をビートたけしにしてみたり、タチコマださなかったり、初期映画からもアニメからもエッセンスを抜いてみたり、とどこの層にアピールしたいのかわからない出演者・スタッフの熱量のベクトルの差で全体的に薄まってしまっている。結果印象的な部分は特にない。
上の方でも書いたけども、全身義体であるという重要な部分も、義体の整形・ケア・メンテパートだけがCGで派手に演出されていて、日常生活部分ではおざなりである。
うーん、まあ、なんとか頑張って実写映画にしたね。以上でも以下でもない。
リメイク版実写「ゴースト・イン・ザ・シェル」の俺的みどころ
ここまで読んでみてよしこの映画を見てみよう! と思う人はいないとは思うけども、もちろん全てがダメというわけじゃない。
1.原作を知っているとニヤニヤ出来る
原作を知っていることが仇になったとさんざん書いたけども、実写版「ゴースト・イン・ザ・シェル」のストーリー自体は良く出来ていると思う。
後に出てくる桃井かおりとの絡みもあるけども、設定としてはとても見事だとさえ言える。
SFアクション、じゃなくて親子の愛の形と再会の物語と言われれば評価は全然違ったんじゃないだろうか。全身義体とは? みたいな初期設定を伝えるところから話が始まり、広げた風呂敷をいい感じに回収するのに成功はしている。
『攻殻機動隊 S.A.C. 2nd GIG』を見ているのなら、クゼヒデオと素子の本作におけるネーミングと設定をより楽しめる。
2.「SOUND BUISNESS」で遭遇するテカテカしたYAKUZAが気持ち悪かった
メインのキャストに関しては総じて印象に残ってないんだけども、唯一こいつはやべぇ!と恐怖を感じたのが、クゼを追う素子が飛び込んだナイトクラブ「SOUND BUISNESS」でバトルするテッカテカしたやくざの一人。多分アジア系だと思うんだけども、日本人かな? いやぁ、あの人はヤバかった。あの人は唯一俺の想定した攻殻機動隊だった。
3.水の上での光学迷彩バトルの再現度はすごい
ビルから落ちるときに光学迷彩で消えるのはふーんて感じなんだけども、初期攻殻で見た水が張られた場所での光学迷彩バトル、あのシーンの再現性はすごい高かった。
実際的には姿は消えているのに水の上を走るときの水しぶきに関してCGで足すか、実際に人間が演じた後に人間を消すしかないとはおもうのだけども、どのみちすごい大変だったんだろうなぁと情熱に拍手を贈りたい気持ちになる。
4.桃井かおりが圧倒的である
さて、桃井かおりである。
作中自分の過去に関して情報を得るために手がかりである場所に訪れるキリアン少佐(スカヨハ)、そこで出会うのが桃井かおりなんだけどもパッと画面に桃井かおりが出てきた瞬間、伏線がもろもろバシバシつながる。
キリアン少佐と呼ばれる全身義体の人物の脳は、実は一体誰の脳なのか?
脳の本来の持ち主は、どのような過去を持っているのか。
桃井かおりが出てきてから、グッと一気に物語に深みが増す。
桃井かおりの演技がとてもよいのですよ、表情がとても良いのですよ、英語の台詞もとてもよいのです。あそこまで外国語に日本語の気持ちを込められるなんて、まじすごい。
ウェイトウェイトとか、もうほんと、こういうカタカナが見える発音だけども、アレできっといいのですよ。
たしかARISE含め全ての攻殻機動隊で素子の家族は語られなかったと思うのだけども、脳だけが実体を持って生きているシチュエーションや記憶を消すことは出来たとしてもゴーストは消えないことの証明として、すごく素晴らしい設定だったと思う。
キャスティングも最高である。
桃井かおりが娘にもう一度会える、という別視点でもう一つ映画を作って欲しいくらいである。
原作を知らなかったら楽しめるか?
正直うーんとなる。SFアクション映画としては、うん、小粒。マトリックスの方が断然刺激的だった。
実写版「ゴースト・イン・ザ・シェル」で覚えているアクションシーンは正直あんまりない。最初期映画版の攻殻機動隊における水上光学迷彩バトルの再現は見事だったけども、あれは言うなればProduction I.Gの功績と言って差し障りない。もちろん再現度はすごかったけども、純粋なアクションシーンとしてどうかといわれたらトリニティーのバレットタイムキックのほうが印象深い。
電脳空間につながる設定や描写もマトリックスの方が上手である。
だいたい重要な部分はネタバレでお届けしてきましたが。
だいたいにおいて言いたいことは桃井かおりが好きなら見に行って良し、それ以外はGWの使い方としてはちょっと微妙かな。
いやぁ、若い頃の桃井かおりに会いに行きたいんで、僕が生きている間にだれかドラえもん発明してくんないかなぁ。
文:シンタロヲフレッシュ
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